タンホイザーとエルザとハンバーグ

 今から30年ほど前の春・・・。

冒頭から微妙にサバ読むのはやめて、31年前の春。


筆者は初めての一人暮らし、初めての社会人生活を満喫していました。

就職をきっかけに住み始めた、誰も知らない町。

グーグルマップのような文明の利器を持たない平成1桁台のあの時代。

初任給で買った黄色い自転車を乗り回しながら、私はその町を知ろうとしていました。

当時私が住んでいた一人暮らしのマンションの大家さんは魚屋さん。

食べる方の魚屋さんではなくて、熱帯魚とか金魚とか売っているのです。

マンションの隣にそのお店があり、退屈な日曜の昼にふと魚を見に行ったりしました。

きれいな熱帯魚や金魚に癒されて、その勢いで飼わなかった当時の自分をほめたいです。

なんせ仕事の時間は不規則、深夜に帰宅することもしばしば、

仕事だけでなく、飲みに行く回数も多かった説もありますが。


そしてもう1つ。お金がない。


新社会人としては決して悪くないお給料だったと、今なら思います。

しかし、一人暮らしで何かと物入りだったこと、

仕事で人前に出ることが増えたため、とにかく小綺麗な洋服が必要だったことが理由です。


そこで削るのは食費、とありきたりな答えを見つけた若き日の筆者。

料理のスキルもそれほどでもなく、

仕事も忙しかったので、毎食自炊というわけにはいきません。

でも、自分でご飯を作れるときは格安メニューに挑戦だ!と自らに戦いを挑んだのです。

スーパー閉店間際に買った30%オフの豚小間切れともやしを組み合わせたホイル焼き、

野菜の切れ端を刻んで作ったスープなど、

お金をかけなくても知恵と工夫で乗り越えるぞ!とそれなりに楽しんでいました。


飲みに行く回数を減らせばいいじゃないかというまっとうなご意見は受け付けません。

慣れない一人暮らし、仕事関係以外の友人がいない日々、初めての社会人生活、やりたかった仕事のはずなのに全然うまくいかない劣等感など、様々な重圧に押しつぶされそうな当時の筆者は、ワイルドターキーのロックを翌日のガソリンにしていたのです。

お友達に関しては、職場の同期はいつも優しく、その後仕事以外の素敵な友人にも恵まれました♡


お料理の話に戻ります。

私が当時作っていた(今でいう)プチプラレシピの1つが、ハンバーグ。

ある日ハンバーグを作っている中で、つなぎのパン粉を入れすぎてしまったことがありました。

しかし、焼きあがったハンバーグはいつもよりちょっと柔らかいものの肉感はいつも通り。

なんだよ、パン粉!

ひき肉と混ざったら、君はほぼ肉ではないか!

魔法の錬金術、いや、錬肉術に私は喜びました。

そこからは、柔らかすぎて焼くときに崩れないギリギリの線までパン粉で増量するという、錬肉ハンバーグを時々作るようになりました。

あの頃のプチプラ料理経験のおかげで、いまだに30分以内に材料費1000円以内で二人分の夕食を仕上げる!みたいなことを自らに課して楽しむことがあります。こうして、残業しても自宅ご飯を諦めない健康的な(いや、小太りな)社畜が出来上がっていくわけですな。


その健康的(だから小太り)な社畜(=筆者)は、今「去年のさっこん演奏会で着た黒のロングスカートは着られるかしら」と一抹の不安を感じながら出かける準備をしています。

本日は川越守記念 北海道交響楽団第100回演奏会に「道響オペラコーラス」の一員として出演させていただくのです。さっこんメンバー有志のみならず、さっこんが仲良くさせていただいているCHOR AIONさんをはじめ、札幌の合唱団から集まったメンバーで歌います。

歌うのは

ワーグナー「タンホイザー」より大行進曲

ワーグナー「ローエングリン」よりエルザの大聖堂への行列


練習が始まった当初、ドイツ語の発音の難しさや、

さっこんで普段歌う曲以上に高い音域などに慄き、

ワーグナー、ダメかもしれへん・・・とあきらめの境地になりました。

練習のたびに歌えるようになっているメンバーの歌声を聴きながら、

私、道響の演奏会あきらめようかな、歌える自信がないと口にしたこともありました。

その時さっこんメンバーに言われたのが「オケと合わせるのだから合唱の人数は多い方がいいよ。とりあえずステージには立とう」という言葉でした。

そうよね、枯れ木も山の賑わい。えすぱーも合唱団の賑わいよね。


そして思い出したのは、あの時のハンバーグ。

そう、私は少なくともパン粉にはなれるはず。賑やかな合唱団のメンバーになるのだ!と思ったのです。

今回歌う曲を以前歌ったことがあるという人たちもいますし、周りの歌える人たち(ハンバーグでいうところのひき肉)に寄り添って、私も気が付けばひき肉みたいな顔したパン粉になればいいのだ!

そう思ったら、少し気持ちが楽になり、せっかくなら楽しみたいという本来の性格がむくむくと顔を出してきました。

歌えない、やめようかなとかぼやいている間に、楽譜を見るのだ!

参考音源を聴くのだ!

せっかくのKitara大ホールでのオーケストラとの共演。

まだ間に合うのだから練習するのだ!


30年前、いや31年前の錬肉ハンバーグのおかげで、

今日を楽しみに迎えることができました。


4月に入ってからの練習で初めてご一緒させていただいた、

客演指揮者 中城良先生のご指導が楽しいということも、大きな理由です。

曲のイメージを具体化してくれるたとえ話が上手!

私が大好きな楽器の1つである鍵盤ハーモニカを使って指導してくれるのも萌え!

(鍵盤ハーモニカへの愛についてはまた語れる機会があれば語らせてください)

そして道響のみなさまが合唱メンバーに向けてくださる笑顔にも、とても救われています。


4月29日(水・祝)

川越守記念 北海道交響楽団 第100回演奏会

TRISTAN UND ISOLDE

札幌コンサートホールKitara 大ホール

16:30開場 / 17:00開演



私たち合唱団の出番は前半ですが、

後半は素晴らしいソリストたちを迎えてワーグナー「トリスタンとイゾルデ」が演奏されます。


合唱メンバーとしてKitaraのパイプオルガン前のP席で歌えるのも楽しみ。

P席の片隅で、立派なハンバーグになってみせますっ!!


by えすぱー







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